概要

2008.6.1 交通資料館に保存されている南北線車両

日本で4番目に開通した札幌市営地下鉄。


開通までの経緯

1960年代、札幌では急速なモータリゼーションの進行によって特に積雪期の交通渋滞に悩まされていた。市内交通の中心だった市電とバスによる輸送に限界が近づいていた(市電が5両連結になった写真が有名)。さらに札幌オリンピックの開催が決定し、選手や観客を輸送するためには市電やバスの輸送力ではこれ以上対応しきれないことから、高速・大量輸送が可能な新しい交通機関建設への期待が高まっていった(当時の札幌には鉄道が全く無かったわけではなく、国鉄の他に定山渓鉄道も走っていた。その定山渓鉄道は昭和42年に廃止となった)。

市は1964年に「札幌市における将来の都市交通計画」に関する調査書を民間に委託して作成させ、翌1965年から札苗実験場(現東区)でゴムタイヤ方式の試験車両による各種試験を開始した(当時の試験車両は交通資料館に展示されている)。鉄車輪とゴムタイヤを併用したり路面電車を都心部のみ地下に潜らせる「路下電車」、モノレールなども検討された。

当時人口が80万人規模だった札幌での地下鉄建設には、当時の運輸省が難色を示していたという。「札幌に地下鉄を作って赤字になったらどうするんだ、熊でも乗せるのか」という運輸省担当者の冗談に、当時の交通局長で後に「札幌地下鉄の生みの親」と呼ばれた大刀豊(だいとう ゆたか)が「料金を払えば熊でも乗せる」と言ったという逸話が残っている。


1967年12月の定例市議会で南北線真駒内〜北24条間の建設が可決され、直ちに免許が申請された。札幌駅前(当時、西4丁目通は市電が最も高頻度で運転される区間であったため)、中島公園のボート池の真下などの難工事であったが、突貫工事で1971年12月16日に全国で4番目の地下鉄が開業したのである。

路線

現在は3路線・48の駅がある。それぞれにラインカラーがある。
2006年からはナンバリングシステムが導入された。


・南北線 グリーン(路線記号:N)
・東西線 
オレンジ(路線記号:T)
・東豊線 
スカイブルー(路線記号:H)

南北線は第3軌条方式、東西線・東豊線は架空電車線方式である。

運賃
初乗り(1区3km未満)200円 これは全国の地下鉄とほぼ同水準である。

以降は以下の水準である。
・2区(7km未満) 240円
・3区(11km未満) 280円
・4区(15km未満) 310円
・5区(19km未満) 340円
・6区(20km以上) 360円

車両

車両構造は独自の方式で、車体幅3,080mmは新幹線を除く鉄道車両では最大である。この構造がネックとなり車体は高額であるにもかかわらず、A-Train等の基本設計の共通化すらできず、コストダウンが不可能。川崎重工でしか製造されていないため入札競争も起こらない。大型ゆえに地方私鉄への譲渡も出来ない。ひいてはトンネル断面が大きくなるために建設費が割高になる。

当初は2000形、6000形など個性的で斬新なスタイル・内装の車両が人気を呼んだ。しかし1993年の「交通局イメージアップ計画」により以後の導入車両は「白地にドアのみ路線カラーで塗装」(俗に「STカラー※」と呼ばれる)が採用され、1994年の東豊線7000形3次車を皮切りに、南北線では5000形、東西線では8000形と同じイメージの車両が投入された。
※市民へのアンケートを募ったものの採用されたカラーリングが投票で最下位であったため、市民の意見を反映されたものかどうかには疑問が残る。


車内の大きな六角形の貫通路が特徴(採用は東西線6000形から)。
近年の導入車両はその幅が狭くなっている。
2006年度より法令改正に準じ、貫通路にガラスの扉が設置された車両が導入された。


開業以来、つり革は全車両三角形で統一されている。これは全国で初。

開業以来現在の新型車両に至るまで、冷房装置が存在せず、夏場は窓を開けて走行する。
車内には風鈴も吊るされるが走行中はかなり煩く、まれに苦情も起こる。


開業以来すべての車両で座席上の荷棚(網棚)が設置されていない。これは乗客の忘れ物防止や、乗車時間が比較的短いことなどが理由。しかし、通常は荷棚がある位置に立客用の掴み棒が設置されている(5000形、8000形には設置されていない)ため、一見荷棚があるかのように錯覚しやすい。このため、旅行者など不慣れな客が網棚があることを前提に載せようとした荷物が着席している乗客の頭上に落としてしまうことがある。また、大きな荷物(スポーツバッグなど)も床に置かざるを得ないため、限られた車内スペースの有効活用や利用者へのサービスの観点からも問題視されることがある。

いわゆるシルバーシートは「優先席」ではなく、「専用席」と呼んでいる。

主な車両は以下の通り。
・2000形(1000形) 南北線(1999年6月引退)
・3000形 南北線
・5000形 南北線
・6000形 東西線(2008年8月30日引退)
・7000形 東豊線
・8000形 東西線


通常の鉄道では車輪からレールにアースしているが、ゴムタイヤ方式ではそのための集電靴(シュー)が必要になる。東西線や東豊線では、集電靴をI字型の案内軌条の両側から挟むように擦りつけているため、駅の直前やカーブなどで一瞬離れてまた接触する時に特有の走行音が発生する。これがいわゆる「スズメ音」である。
南北線はT字型の案内軌条の天面に擦りつける方式のため、この音はほとんど発生しない。
SUPER BELL"Zの楽曲「MOTER MAN 札幌市営地下鉄南北線」では効果音でスズメ音が頻繁にあるが、これは間違い。

ゴムタイヤ

札幌市営地下鉄は全国の地下鉄事業者で唯一、ゴムタイヤによる走行方式を採用している。ゴムタイヤを使った地下鉄そのものはパリ、メキシコシティーなどにもあるが、札幌の場合は中央に一本のレール(案内軌条)があり、それをさらにタイヤで挟み込むという独特の方式を採用している。「Sapporo」方式などとも呼ばれている。

同じゴムタイヤ方式でも違いがあり、南北線はダブルタイヤ、東西線と東豊線は大型のシングルタイヤを採用している。

当時は駅間を1km未満(市電程度)で考えていたため、幾たびも検討を重ねた結果、短距離の加速性能を重視したゴムタイヤ方式を採用することとなった。苗穂に設置されたテストコースを試験車両が走り、実験が続いたのである。このことは当時の広報誌にも掲載されていたようであるが、除雪の方法もはっきりせず鉄輪方式を十分に検証しないまま早い段階で見切りをつけ、前例の無いものを達成する高揚感が先走っていたのではないかとの指摘もある。現在では鉄輪方式でも札幌の地下鉄レベルの加速を誇る電車が数多く走っている。また、「平岸→南平岸の急勾配は、ゴムタイヤ車両でなければ無理」という指摘もあるが、該当場所の最大勾配は43‰であり、鉄輪でも問題ない(ちなみに、神戸電鉄はもっと急な勾配を鉄輪で走行している)。

ゴムタイヤを採用したため、国鉄(現在のJR)との相互乗り入れは不可能となった。


ゴムタイヤ方式の利点としては
・加速と減速に適している
・急勾配に強い(先述の通り札幌市営地下鉄の最大勾配は43‰で、鉄輪でも走行できる程度)
・乗り心地が良い(ただし南北線は路面の劣化により揺れる)
・線路ではないので、保線が楽
・静かである(ただし夏場は窓を開けるため走行音が喧しい)
・JRとの乗り入れがないが、雪に影響されることがない(ほぼ全線地下のため)


一方、デメリットとしては
・磨耗により(鉄輪よりも寿命が短い)保守費用がかかる
・環境ホルモンの問題
・JRとの相互直通運転が出来ない


など、いろいろある。

安全対策

開業以来投身事故対策は交通局の悩みであり、「自殺の名所」と揶揄されたこともある。札幌の地下鉄の場合は先頭部に排障器を設置、ホーム脇にプレートを敷く等構造もフラットな構造なので死に至るケースは少ないが、ゴムタイヤのため死亡に至った場合は遺体の損傷が激しく、乗務員への影響もあった。
交通局もホームに飛び込もうとする自分の姿を見て思いとどまってもらうべく自殺予防の鏡を設置したり、「いのちの電話」への協賛をするなど事故対策を講じている。
平成18年度までに、全駅の駅ホームへの列車緊急停止ボタンの設置も完了した。


2008年度より東西線においてホームドア(交通局では可動式ホーム柵と呼んでいる)の設置が始まった。南郷7丁目駅の中線に先行設置され、2008年5月末より使用を開始した。2008年9月より新さっぽろ駅から順次設置を開始し、2009年3月に東西線全駅に設置完了した。
以後は2014年度までに南北線、2019年度までに東豊線にも設置される予定である。

JRとの関係

ゴムタイヤを採用したため、国鉄(現在のJR)との相互乗り入れは現時点では不可能。もっとも当時の国鉄は地方への列車重視で非電化路線も多く、駅も少なかったためその必要性が無かったからである。民営化後の現在のJR北海道は近郊通勤にも力を入れるようになり駅も増加、車両も近代化が進んだ。
地下鉄とは競合状態(東西線はほぼ全線、南北線・東豊線は北部)である。


同じ北海道の鉄道事業者でありながら普段の連携が良いとも言えず、事故などの際の振替輸送も行われておらず、両者の連絡定期券も発売されていない。2009年より導入されるICカード(JR北海道:Kitaca 札幌市交通局:SAPICA)も互換性が見送られた。なお、振替輸送に関しては、2008年秋にJRで2時間以上の遅れが出た場合に「JR→地下鉄」の振替輸送実施が決定された。

また携帯電話のルールにいたっては真っ二つに分かれていた。JR北海道は首都圏私鉄・JR東日本のような一般的ルールを採用し、優先席付近のつり革をオレンジ色に変えた。一方、札幌市営地下鉄は数年前から全面禁止を掲げていたが、あまりにも守られていないことや改正を望む声が多かったことを理由に2009年4月に一般的ルールに改正された。

広告に関しては寛容で、快速エアポートの広告が地下鉄車内でも見受けられる。

その他、ホームでの乗車待ち整列はJRが2列なのに対し札幌市営地下鉄は4列と、いろいろ相違点がある。

乗り継ぎ割引

指定の地下鉄駅と路線バス・路面電車を乗り継ぐ場合に適用される。
ただし、この割引はJRには適用されていない。

女性とこどもの安心車両(女性専用車両)

全国的に導入されている女性専用車両に関して、もともと編成車両数の少ない(南北線:6 東西線:7 東豊線:4)路線が多い札幌市交通局は導入に消極的であった。最初のアンケート結果では導入に反対の市民が多かったために見送られた。しかし2007年に東豊線車内で通り魔事件が発生。その後のアンケートでは導入希望の声が増えたことと、南北線では痴漢事件も発生していたことから、導入の実験を行った。
2008年夏ごろに1ヶ月間、朝ラッシュ時間帯限定で南北線において導入実験が行われた。南北線の最混雑する車両は「さっぽろ駅北出口に近い車両」(麻生側先頭車両)であることを考えて、その反対側である1号車(真駒内側先頭車)に設定された。導入後のアンケート調査で導入に前向きな意見が多かったため、南北線では2008年12月より、東西線では2009年7月に導入(予定)、正式名称は「女性とこどもの専用車両」と発表された。ただし東豊線は車両が4両しかないため、他の車両が混雑する度合いが高くなることなどを理由に導入はされないことになった。
導入実験時は始発より午前9時までに設定され、9時を持って一斉解除となるルールになっていたので、本格導入の際もこのルールが適用された。なお、「女性専用車両」となってはいるが、これはあくまでも任意での「お願い」であり、男性が乗車してもペナルティーや罰則があるわけではない。これは女性専用車両とすることで、性差別にあたるという法解釈に配慮したものである。また、小学生以下、身体障害者、女性身体障害者の介護人などは男性であってもこの車両に乗車できることになっている。
2008年12月15日より、実験時と同様の条件で南北線での導入が始まった。名称は「女性専用」から「女性とこどもの安心車両」に変わった。これは「女性専用」にしてしまうと、この車両に乗車できる一部の男性客(小学6年以下の男児、身障者、身障者と同乗する介護人)が利用しにくいためである。ステッカーも新たなデザインのものが用意され、専用席の案内のように「この車両に乗車できる人」をイラスト入りで示している。設定されているのは1号車(麻生行:最後尾/真駒内行:先頭)となっている。

2009年7月13日からは東西線でも導入されることが決まった。設定は南北線同様平日の始発から午前9時の間で利用条件も同一。設定された車両は4号車で、これは宮の沢行き・新さっぽろ行き共に編成の中央に該当する。

乗車位置は以下のとおりである。
路線 適用車両 方面別乗車位置
南北線 1号車
(3000・5000)
麻生行 3000形:15・16 5000形:21〜24
真駒内行 3000形:1・2 5000形:1〜4
東西線 4号車 両方向共に、10・11・12
東豊線 導入予定なし

その他のサービス

乗車カード「ウィズユーカード」は、地下鉄・路面電車のみならず札幌市内のバス路線(高速バスなど一部除く)すべてで利用できる便利なプリペイドカードである。このカードにはプレミアが存在するため(例:1000円カード→1100円分利用可能)実際の購入額よりも多く利用できる。また、以下のようなカードが発売されているので使い分けると便利である。
 ・ウィズユーカードの適用範囲で使える一日乗車券「1-DAY カード」
 ・地下鉄のみで使える一日乗車券「地下鉄専用 1-DAY カード」
 ・毎月5・20日に利用できる一日乗車券「エコキップ」
 ・土曜日、日曜日、祝日に地下鉄だけで利用できる一日乗車券「ドニチカキップ」
 ・昼間(10時〜16時)のみで利用できる「昼間割引カード」(プレミアが多い)
 ・その他「敬老乗車カード」「福祉乗車カード」などがある。


2009年1月30日より導入されたICカード「Sapica(サピカ)」は当初は地下鉄でしか使用できないが、順次拡大される予定である。ただしJR北海道が導入する「Kitaca(キタカ)」との相互利用ができない。Kitacaの方が2009年度よりJR東日本のICカード「Suica」との相互利用が可能になり電子マネーの利用も始まるため、バス事業者(特にJR北海道の子会社であるジェイアール北海道バス、札幌市外でも路線網を展開する北海道中央バス)がどちらを選ぶかは不透明である。同じ市営交通の路面電車ですら利用できないため、利用の頻度に疑問符が投げかけられていた(市電で導入されないのは、設置費用の問題と、老朽化した車両の更新が優先であるため)。

事故などの運休時にメールを配信するサービスがある(要登録)。

交通局のホームページでは時刻表と駅間距離・時間しかわからないが、「さっぽろ えきバスナビ」というサイトで、各駅・停留所の時刻表のみならず最短経路の検索・所要時間・料金の比較が出来る。
このサービスは携帯でも閲覧でき、「えきバス テル」という電話での受付もある。

経営状態

「万年赤字」「走れば走るほど赤字」などと揶揄されていたが、2007年度は営業利益で黒字転換となった。これは人員削減によるコストダウンや補助金の変更、ダイヤの見直しによるところが大きい。累積赤字は相変わらず膨大であるが、これはバブル期に建設された東豊線北部の建設債が影響している。
札幌市交通局では「10か年計画」に則って経営再建を進めており、着実に効果を出している。2009年度からは東西線でワンマン運転が始まったことによって車掌にかかる人件費を削減。今後は南北線や東豊線でもホームドア設置・ワンマン運転などの整備が進められてより一層の効率化を図っている。

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